私は、相場に勝とうとしていません。
投げやりに聞こえるかもしれませんが、これは私の型のいちばん深いところにある本音です。
先日自分のトレードを振り返っていて、手が止まりました。時間をかけて磨いてきた型——週足から見ること、形が揃うまで待つこと、入る場所、損切りの置き方——それを全部削って煮詰めていくと最後に残ったのはたった一言だったんです。
「期待値を、取りに行く」。
期待値とは、同じ賭けを何度も繰り返したときに1回あたり平均していくら残るか、という数字です。
それだけでした。手順だと思っていたものは、全部この一言の言い換えでした。
今日は、手順の話をしません。手順の下に敷かれている、この一言の話をします。これが腹の底に落ちた日から勝った夜の万能感と、負けた朝の自己嫌悪がセットで消えました。

カジノは、今夜のあなたの勝ちを喜んで祝う
カジノで大勝ちする客は、毎晩どこかにいます。それでもカジノは青ざめるどころか、笑顔でシャンパンを開けてくれます。なぜか。
胴元は、今夜の話をしていないからです。
ルーレットもバカラも、ほんの数パーセントだけ店側に分(ぶ)があるように設計されています。一晩では、その数パーセントは見えません。サイコロの偏りに、あっさり飲み込まれます。でも何千回、何万回と回れば、偏りは均されて設計だけが残る。だから胴元は今夜の勝者に酒を注げるんです。テーブルの上のお金が、長い目で見れば設計のとおりに流れていくと知っているから。
客と胴元の違いは、資金力ではありません。客は「1回」を見ていて、胴元は「分布」を見ている。それだけです。
そして昔の私は、チャートの前で完全に客側の人間でした。勝てば「掴んだ」と舞い上がり、負ければ「向いていないのか」と落ち込む。1回の結果を、毎回自分の実力の判定だと受け取っていました。1回の結果は実力ではなく、ほとんどサイコロなのに。
手法を全部削ったら、「席を選ぶ」だけが残った
型を一言に潰した、と書きました。その中身を並べます。
- 週足の大きな流れから確認するのは——流れに逆らった、分の悪い勝負を最初から捨てるため。
- 形が揃わない場面を見送るのは——損と得が釣り合った、五分の席に座らないため。
- 押し戻しを確認してから、もう一度走り出したところだけを取るのは——天秤がはっきり傾いた席だけで打つため。
- 損切りを小さく固定して利益を伸ばすのは——賭け金が小さく、配当が大きい形に組み替えるため。
- 入口に逆指値を先に置いて立ち去るのは——感情に酔った私を、台に触らせないため。
全部、同じことを言っています。
分のいい席を選び、分のない席には座らない。それだけです。勝率が半分を切っても口座が増える算数は、電卓ひとつで分解できる話なので『勝率は高かったのに、口座だけが減っていった』に譲ります。今日の本題は、その算数の手前にある「どちらの側に座るか」の話です。

ギャンブルとの違いは、行為ではなく座る側にある
「FXなんて、ギャンブルでしょう」。
そう言われて言い返せなかった経験のある方は、多いと思います。私も長いあいだ、うまく答えられませんでした。今なら、こう答えます。
半分は、そのとおりです。
ギャンブルと呼ばれるものは、期待値がマイナスの席「しか」売っていない店です。宝くじもルーレットも、座った瞬間に長期の負けが設計として確定している。どれだけ研究しても客席に座っている限り、その設計は覆せません。
相場が特殊なのは、どちらの側に立つかを自分で選べることです。
打ちたい時に打ち、当てにいき、1回の結果に感情を賭ける——それは期待値マイナスの席に自分から座りにいく行為で、中身はルーレットと変わりません。チャートを見ていても、です。私にも覚えがあります。自分の言葉で説明できない銘柄を下がるたびに買い増していた頃の私は、チャートの前に座った客でした。その銘柄は最後、ホームページごと消えました。
(顛末は『買い増した銘柄は、ホームページごと消えた』に書いています)
分がはっきり傾いた場面だけを選び、賭け金を固定しあとは回数に答えを出させる——同じチャート同じ注文ボタンでも、これは設計を所有する側の行為です。
トレードがギャンブルになるかどうかは、何をやるかでは決まりません。客席に座るか、設計する側に座るかで決まります。同じ相場で、客と胴元は別のゲームをしているんです。
一喜一憂が消えたのは、性格が変わったからではない
私はもともと、感情の起伏のない人間ではありません。
その私から一喜一憂が消えたのは修行の成果ではなく、ただの理解でした。
1回がサイコロだと本当に腹落ちすると、1回の結果に感情を置く場所がなくなります。勝った夜に舞い上がらないのは我慢しているのではなく、「今夜のサイコロがたまたまこちらに転んだだけ」と知っているから。負けた朝に自分を責めないのは心が強いからではなく、その負けが最初から設計に織り込まれた1回だと知っているから。
胴元は、今夜の客の大勝ちで青ざめません。同じ理由で、私は今日の損切りで青ざめません。
ただし、この設計には支払い条件が一つだけあります。回数です。期待値は、回り続けたテーブルにしか現れません。途中で資金が尽きれば、設計ごと消えます。その話は『期待値は、生き残った人にしか払われない』に書きました。

直近10回を、「席」で並べ直す
ここまで読んで、頷かないでください。
頷く前に、並べてほしいものがあります。直近のトレード、10回分です。見るのは、勝ったか負けたかではありません。「そこは、分のある席だったか」だけです。
10個並べて席の良し悪しと関係なく打っていたなら——腕を磨く前に、座る場所を選ぶのが先です。
並べ直した10回がどう見えたかは、記事末でご案内する無料の一冊を受け取ると届くメルマガに返信で送ってください。個別のお返事はしていません。でも席を選べていた10回でも、そうでなかった10回でも、私が全部読んでいます。
勝ち負けは、相場が決めます。
損益の形は、私が決めます。
客席を立つのに、才能は要りませんでした。
次に読む

——「分のある席」を電卓ひとつで分解した、算数編です。

——この設計の唯一の支払い条件、「回数」を守る話です。

——席を選んでから先に置く、私の実際の入口の作法です。
「分のある席」を実際のチャートのどこで、どう見分けるのか。その手順を画面の設定まで含めて、無料の一冊『たった一つの形』に順番どおり並べました。

【ご確認ください】
本記事は私の経験と考え方の共有であり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。
投資には元本を割り込む損失のリスクがあり、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。

