大きく下げた日ほど、買いたくなる時期が私にもありました。
理由を言葉にすると「下げすぎだから」。それ以上の説明を持っていませんでした。入る場所は語れるのに、「どこまで戻ったら利益を確定するのか」には答えが出ませんでした。
厄介なことに、この買い方はときどき勝ちます。深く下げた相場が反発して、平均線のあたりまで戻る。その戻りを何度か取ると、自分のやり方が正しく思えてきます。
今日は、あの頃の取引を日足の20日線という1本の線の上で解剖します。入口の話ではありません。出口の話です。逆張りで痛い思いをした方ほど、心当たりのある場所に着地するはずです。

私が買っていたのは、価格ではなく「距離」でした
逆張りという言葉を、少しだけほどきます。
価格が大きく動くと、日足の20日線——直近20日の終値の平均——から離れていきます。この離れ具合が乖離です。乖離が大きくなるほど「さすがに行き過ぎだ。いずれ平均に戻るはずだ」という力学に賭けたくなる。下げすぎた場所で買って、平均へ戻る動きを取る。これが、あの頃の私がやっていた取引の正体です。
つまり逆張りが取ろうとしているのは、価格そのものではありません。線までの距離です。
この見立ては、半分正しいのです。伸びすぎた価格が平均線の方へ戻る動きは、実際によく起きます。だから勝率だけを見れば悪くない数字が出たりします。私がなかなかやめられなかった理由も、そこにあります。
問題は、その距離の終点に何があるかでした。
出口に、人が待っています
2026年8月のある週、スイスフラン円が数日で大きく下げました。価格は日足の20日線からはるか下にいます。この原稿を書いている今も、その下で小さな反発が始まっています。
この反発を買った人の利益は、どこまで伸びるでしょうか。
賭けの中身が「平均への戻り」である以上、目的地は20日線です。そこから先は「戻り」ではなく新しい上昇の話になってしまい、逆張りの理屈では説明がつきません。つまりこの取引は、出口があらかじめ1本の線に固定されています。
では、その線のあたりに何があるか。
下げている相場の20日線は、戻り売りを狙う人たちが待っている場所です。私も、その一人です。下げの流れに乗りたい人は、いちばん深い場所では追いかけません。価格が平均線の近くまで戻るのを待って、そこから売り直します。

逆張りの利益確定と、順張りの新規注文。呼び名は正反対ですが、置かれる場所は同じです。逆張りの出口は、順張りの入口なのです。
この構造に気づいたとき、昔の自分の負け方が急に説明のつくものに変わりました。買った後の反発が、線に近づくほど鈍っていく。あと少しで平均線というところで失速して、崩れていく。あれは運が悪かったのではありません。出口だと思っていた場所が、反対側の人たちの入口だったのです。
伸びしろは縮み、損切りは遠いまま
この取引の損益の形を、数字を使わずに描いてみます。
利益の上限は、線までの距離です。しかも価格が戻るほど、残りの距離は縮んでいきます。進むほど獲物が小さくなる、めずらしい賭けです。
一方で損切りは、直近の安値の下に置くしかありません。少なくとも、当時の私の逆張りはそういう設計でした。深く下げた相場の安値は遠く、下げが再開すればさらに遠くへ逃げていきます。利益の見込みは線までで頭打ち。損切りまでの距離は、たいていそれより長い。
この形の取引を繰り返すと、勝率が高いのに口座だけが減っていくあの奇妙な現象が起きます。心当たりのある方は『勝率は高かったのに、口座だけが減っていった』が、その算数の話です。
分の悪さは腕やメンタルの問題ではなく、出口が固定された瞬間に決まっていました。

同じ波を、反対側から見ています
ここまで読むと、私が逆張りを責めて終わるように聞こえるかもしれません。違います。ここからが、この記事でいちばん書きたかった場所です。
深く下げた場所から平均線へ戻っていく、あの反発の波。逆張りの人にとっては本命の波です。同じ波が、私の画面では別の名前で呼ばれています。戻り——エリオット波動でいう第2波です。
私は下げの流れに乗りたい側なので、戻りが一度入って力尽きるのを待ちます。戻り高値が切り下がったのを確認したら、二つの山の間の谷——ネックライン——の下に逆指値を置いておきます。下げが再開すれば注文が勝手に拾い、戻りが伸び続ければ注文だけが残ります。
つまり、こういうことです。逆張りの人が本命として取りに行く波を、私は自分の打席が近づく合図として眺めています。同じチャートの同じ場所で、取っている波が1本だけズレている。彼らが取りに行くのは第2波で、私が待つのはその次の第3波です。ズレはたった1本。それでも片方は出口に人が待っていて、片方は待つ側です。
念のために書いておくと、流れに逆らう取引が永久に禁止という話ではありません。流れの変わり目だけは、私も逆を取ります。ただしその条件は別の記事に書いたとおり、ひどく厳しいものです。
(『流れの変わり目だけは、逆を取る。ただし条件は、ひどく厳しい』)
あの頃の私は、下手ではありませんでした
あの頃の私に言えることがあるとすれば、これです。
損切りが遅かったのでも、メンタルが弱かったのでもありません。出口に人が待っている側で、戦っていただけです。そしてどちら側に立っているかは、日足の20日線と価格の位置関係を見れば数秒で分かります。買いを考えているなら、価格は線の上か。売りを考えているなら、線の下か。
私がこの線に一切の言い訳を許さない話は『例外を、一つも作らなかった線』に書きました。今日の話は、その線の反対側で何が起きているかという裏側の解剖です。
- 逆張りが取っているのは価格ではなく、20日線までの「距離」
- その距離の終点=逆張りの出口には、順張りの注文が待っている
- 利益は線で頭打ち・損切りは遠い=分の悪さは出口が固定された瞬間に決まる
- 平均線へ戻るあの波を、順張り側は第2波と呼んで待っている
線の下の反発を、私は今も毎週見ています。
買わなくなっただけです。その波がどこで終わるのかを、知ってしまったからです。
次に読む

——今日の話の表側。この線に例外を作らない、という規律の話です。

——出口が固定された取引の算数を、口座の減り方から見た話です。

——それでも逆を取っていい、数少ない場面の条件です。

——では自分の出口はどこに置くのか。こちらに書いています。
この線のどちら側で、どの形だけを待つのか。全体の順番は、無料の一冊『たった一つの形』にまとめてあります。

【ご確認ください】
本記事は私の経験と考え方の共有であり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。
投資には元本を割り込む損失のリスクがあり、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。

