「あの時入っていれば」は、後からしか言えません

いちばん悔しいのは、負けた朝ではありませんでした。入らなかった朝でした。その悔しさを数えて過ごす癖が、私にはありました。

条件が揃わなかったので、その日は注文を置かずに閉じる。翌朝チャートを開くと、そこから大きく走っている。「昨日入っていれば取れていた」。この一行が、頭の中に残ります。

そういう場面が続くと、自分のルールが遅すぎるように見えてきます。もっと早く入れる形に変えられないか。確認の工程を一つ減らせないか。私は実際に、そう考えて何度もルールをいじろうとしました。

ただ、その悔しさは数え方を最初から間違えていました。結論だけ先に置きます。私が取り逃したと思っていた場面の山は、勝ち筋の山ではなく、負け筋の山でした。

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私が数えていたのは、走った場面だけでした

見送った場面のうち、記憶に残るのはどれか。走った場面です。

朝チャートを開いて、大きく伸びている。悔しいので覚えている。逆に、見送ったあと何も起きずに崩れた場面は、翌朝チャートを開いても何も感じません。だから記憶に残らない。

つまり私の頭の中の集計は、最初から偏っていました。走った見送りだけを数えて、走らなかった見送りを数えていなかった。

これは能力の問題ではなく、記憶の仕組みの問題です。悔しさは印象に残り、何も起きなかった日は残らない。この偏りがある限り、頭の中の集計はいつまでも「私のルールは慎重すぎる」という答えを返します。

見送った場面を、全部並べてみました

そこで私は、感覚で数えるのをやめました。条件が揃わずに見送った場面を、後から一つずつ全部並べたのです。走った場面も、何も起きなかった場面も、区別せずに。

並べてみると、印象が逆になりました。

大きく走った場面は、確かにあります。ただ、それは山の一部でした。残りの大半は行きかけて崩れるか、方向が決まらないまま横へ流れていきました。そのまま逆へ抜けたものもあります。

私が「取り逃した」と呼んでいた山は、勝ち筋の山ではなく、負け筋の山でした。

見送りは、機会を捨てる行為ではありませんでした。負ける側を捨てる行為でした。

私はこれを、自分の目で並べるまで信じられませんでした。だから、この記事を読んでいるあなたにも、信じてほしいとは思いません。あとで自分の履歴で確かめてください。方法は最後に書きます。

期待値は、振る場所を選ぶ道具です

期待値というのは、1回あたりの平均の損益のことです。プラスなら、繰り返すほど増える側にいる。マイナスなら、繰り返すほど減る側にいる。

この言葉は普通、「期待値がプラスの場所でだけ、バットを振りましょう」という形で使われます。振るとは、実際に注文を出すことです。私もそう教わりました。

ただ、これは裏返すと別のことを言っています。プラスの場所を選ぶというのは、それ以外の場所を外すということです。選ぶと外すは、同じ一つの動作の裏表です。

だとすると、期待値を実際に使う瞬間はどこか。振ると決める瞬間ではありません。振らないと決める瞬間です。

条件を確認している時間は、何もしていない時間に見えます。実際にやっているのは、ふるいにかけることです。待っている間に、崩れる場面が勝手に脱落していきます。

事前に選べない有利は、受け取れません

ここからが、私がいちばん長く間違えていた場所です。

走った場面だけを取り出して比べると、早く入った方が有利に見えます。これは事実です。確認を省いて先に入っていれば、その一本はもっと大きく取れていた。計算しても、そう出ます。

ただ、この比べ方には前提が隠れています。「走った場面だけを取り出す」という操作は、走ったあとにしかできません。

入る瞬間の私は、目の前の場面がその後どちらへ行くかを知りません。走る場面と崩れる場面が、区別のつかない顔で並んでいます。だから、早く入る形に変えるということは、走る場面にだけ早く入るという意味にはなりません。崩れる場面にも同じだけ早く入るという意味になります。

後から選べる情報で得た有利は、事前には受け取れません。

「あの時入っていれば取れていた」が正しいのに、ルールを変えると成績が落ちるのは、これが理由です。あの一行は、答えを見てから解答用紙を書き直しているのと同じ形をしています。

私はこれを理屈として理解したあとも、しばらく手が動きませんでした。悔しさの方が、理屈より速いからです。

だから私は、確認が終わるまで注文を置きません

では実際に何を確認しているのか。書いておきます。

まず、大きい足でローソク足の実体が短期線から半分以上抜けた1本を、点火として見ます。ここではまだ入りません。構えるだけです。

次に、その1つ下の足を見ます。点火のあと、そこから第1波が出ます。私が待つのは、その次に来る第2波です。押しや戻りが一度入って、それが耐えるかどうか。安値が切り上がっているか、切り下がっていないか。ここだけは目で見ます。

耐えたら、さらに1つ下の足でネックラインを探します。そこに逆指値を置いて、閉じる。あとは相場に決めてもらいます。

この手順の中で、私が捨てているのは「第2波が来ない場面」です。点火だけして、押しも戻りも作らずに一気に走ってしまう場面。または、押しがそのまま崩れて第1波ごと否定される場面。前者は乗る場所がなく、後者は方向が変わっています。

どちらも、私の側から見れば「入れなかった場面」です。そして翌朝、前者は大きく走っていることがあります。悔しい。ただ、その悔しさと引き換えに、後者の山を丸ごと外しています。

待つことが、実際にやっていること
  • 崩れる場面が、注文を置く前に勝手に脱落する
  • 損切りを置く場所が、確認の過程で自然に決まる
  • 入るか見送るかの判断を、その場の気分から外せる

信じなくていいので、数えてください

ここまで書いておいて何ですが、私の言うことを信じる必要はありません。この話は、自分の記録で確かめられます。

今日からできる一手を、一つだけ置いておきます。

あなたが直近で「条件が揃わなかったので入らなかった」場面を、10個書き出してください。そして、その後どうなったかを一つずつ見てください。走ったか、崩れたか、何も起きなかったか。三つに分けるだけで構いません。

走った場面だけを数えていた頃と、印象が変わるはずです。もし変わらなければ、あなたのルールは本当に慎重すぎるのかもしれません。それも、数えてみないと分かりません。


書き出してみた結果を、(記事末のご案内から)無料の一冊を受け取ると届くメルマガに返信で一行だけ教えてください。「10個中、走ったのは2つでした」でも、「途中でやめました」でも構いません。数えた人にしか見えない景色があります。

次に読む

——期待値がマイナスの場所とは、具体的にどんな場所かという話です。

——その期待値を受け取る条件、つまり回数を守るための算数です。

——確認が終わったあと、実際に注文をどう置くかの話です。

——置いた注文を消したあとに、価格が伸びた週の記録です。それでも「あの時入っていれば」とは書きませんでした。

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【ご確認ください】
本記事は私の経験と考え方の共有であり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。
投資には元本を割り込む損失のリスクがあり、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。


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この記事を書いた人

トレードの本質を語ります。聖杯も未来を言い当てる方法もありません。あるのは相場の流れを見極め、優位性が生まれるまで待ち、間違えたら撤退するという地味な積み重ねだけです。私を信じる必要はありません。すべてご自身のチャートで確かめてください。

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