勝率と損益比——1回の負けに対して勝ちが何倍か——で破産確率を色分けした表を、私は拾ってきました。よくできた表です。眺めていれば、自分の手法がどのマスにいるのか分かった気になります。
私はその表を消して、同じものを自分で計算し直しました。
理由は単純です。その表には「破産」が何を指すのかも、何回打った場合の話なのかも書いてありませんでした。
数字は、条件を書かないと嘘をつきます。嘘をつくつもりがなくても、読む側が勝手に自分の話だと思い込む。私はその思い込みで、一度口座を痩せさせています。
今日は、その計算をやり直した結果を全部そのまま置きます。持ち帰っていただきたいのは一つだけです——あなたが生き残るのに必要な勝率は、あなたの損益比が決めている。勝率という数字は、単独では何も意味しません。

拾った表を、私は信じませんでした
その表は縦に損益比、横に勝率が並んでいてマスの中に破産確率が入っていました。1回の負けで口座の2%を失う前提です。
不思議だったのは、中身がほとんど「100.0」と「0.0」しかないことでした。境目にだけ8.37とか45.5とか、半端な数字が混じっている。
確率の表なのに、確率が二つしかない。これは、おかしい。
計算し直して、からくりが分かりました。その表は「無限に打ち続けたら」の話でした。
無限に打てば、期待値がマイナスの人はいつか必ず資金が尽きます。今日たまたま勝っていても、来年たまたま勝っていても、無限の先では必ず尽きる。だから100。逆に期待値がプラスなら、無限に打っても尽きない。だから0。
つまりあの表は、破産確率の表の顔をした期待値がプラスかどうかの表でした。
その表には、いちばん大事なことが書いてありません
私たちは無限には打ちません。
私の場合、実際に建玉を持つのは月に8回ほどです。年に100回としても、20年打って2000回。無限には、遠く及びません。
そして有限回の世界では、話が変わります。期待値がプラスでも序盤に連敗が偏れば、プラスに転じる前に資金が尽きることがある。逆に期待値がわずかにマイナスでも、200回程度なら生き延びてしまうこともある。
だから破産確率という数字を読むときに必要な条件は、二つです。
- 破産をどこと定義しているのか(残高ゼロなのか、半分なのか、1割減なのか)
- 何回打った場合の話なのか
この二つが書いていない表は、読めません。書いていない表を自分の話だと思って安心するより、読めないと切り捨てるほうがずっと安全です。
生き残るのに必要な勝率は、損益比が決めている
条件を決めて、計算し直しました。1回の負けで口座の2%を失う。200回打つ。残高が最初の半分を割ったら終わり。200回は、私のペースでおよそ2年ぶんです。
この条件でサイコロを2万回振らせて、出てきたのがこういう地図でした。縦が損益比、横が勝率、中の数字が資金が半分になる確率です。
| 損益比 | 30% | 35% | 40% | 45% | 50% | 55% | 60% |
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.5倍 | 100 | 100 | 100 | 99.9 | 95.4 | 61.5 | 12.7 |
| 1.0倍 | 100 | 98.4 | 75.4 | 24.3 | 1.7 | 0.0 | 0.0 |
| 1.5倍 | 90.4 | 42.6 | 5.5 | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
| 2.0倍 | 37.6 | 4.1 | 0.1 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
| 3.0倍 | 1.2 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
(あくまで、上に書いた条件のもとでの一例です。勝ち負けの並び順は毎回独立とみなし、スプレッド・手数料・約定のすべりは入れていません)
読み方は一つだけです。左の列を下に降りるほど、生き残れる勝率がどんどん左へ移動していく。
生き残れる線は、資金が半分になる確率が1%を切るあたりに置きました。
- 損益比1.0倍なら、勝率55%が必要
- 1.5倍なら、45%
- 2.0倍なら、40%
- 3.0倍なら、30%(正確には1.2%で、1%の線をわずかに越えています。線の内側に完全に入るのは35%から。それでも、他の行とは桁が違います)
損益比を1.0から3.0へ動かすだけで、必要な勝率が25ポイントも下がる。勝率を25ポイント上げる方法を、私は10年かけても見つけられませんでした。損益比を3倍にするほうは、手が届きます。損切りを構造の外に置いて、狙った波が終わるまで降りない。それだけです。もちろん遠くまで持とうとすれば、届かずに終わる回数は増える。勝率はそのぶん下がります。それでも表が言っているのは、その交換が割に合うということです。
どちらに労力を払うべきかは、考えるまでもありませんでした。

怖いのは低い勝率ではなく、低い損益比
この地図で本当に見るべきなのは、一番下の行ではありません。一番上の行です。
損益比0.5倍——負けるときは1万円失い、勝つときは5千円取る。この設定だと、勝率55%まで上げても、資金が半分になる確率が61.5%あります。6割まで勝てるようになって、ようやく12.7%。8人に1人は、それでも口座を半分にします。
10回打って6勝4敗。手応えは、あります。当たっている感覚がある。月末に勝率を計算して、6割だと分かって少し誇らしくもなる。
それでも、口座は減る。半分まで一気に溶けずに済んだ残りの人も、じりじりとは減っていきます。1万円失って5千円取る勝負は、6割当てても足し算がマイナスのままだからです。
これは私の話です。この一番上の行に、私は何年も立っていました。
理由ははっきりしています。負けるのが、怖かった。
少し利益が出ただけで、すぐに確定させていました。
今のうちに勝ちにしておけば、この一回は負けにならない。
そうやって決済ボタンを押すたびに、負けの回数は一つ減ります。
減っていたのは負けの数だけで、勝ちの幅はそのぶん小さくなっていました。自分の手で削っていたのだから、当然です。
勝率は上がっていました。ただ同時に、損益比は毎月下がっていました。表でいえば右の安全な列へ進んだのではなく、一番上の危ない行へ移っていただけです。

勝率という数字の恐ろしいところは、下がると不安になるのに上がっても何も保証しないことです。上がった勝率は、たいてい損益比を差し出した対価として買われている。無料では上がりません。
勝率を捨てられるのは、損益比を実現できた人だけ
ここで「勝率は低くていい」と受け取らないでください。それが、いちばん危ない読み方です。
条件が一つあります。表に入れていい損益比は、決済まで終わったあとの実際の数字だということです。
設計上は損益比3倍でも、実際にそうなるとは限りません。ずれる理由は、はっきりしています。
- 建値——入った値段そのもの——へ逃げて終わった建玉(ほぼ損をしていませんが、勝ってもいません)
- 3取れる場面を、1.2で降りた建玉
- 半分を1で利確して、残りを3まで持った建玉(平均すると2にしかなりません)
これが混ざると、設計3倍が実現1.5倍まで落ちます。そして地図を見れば分かる通り、1.5倍の必要勝率は45%です。30%では、9割の確率で残高が半分を割る側に入る。
同じ「損益比3倍を狙う手法」でも、握れたかどうかで残る側と半分を割る側に分かれます。
つまり——損益比を決めているのは、入口ではなく出口です。
損切りの幅は先に決まる。利益は、指が決める
損切りの位置、つまり割り算の分母は注文を置いた瞬間に確定します。私は押しが踏ん張った谷の下——形が崩れる構造の外側——に置くと決めているので、そこは迷いません。ですが分子は、決済するまで確定しない。伸ばせたぶんだけが、分子になります。
押しが終わってからの再上昇——私が第3波と呼んでいる区間——を狙うと決めているのに、その途中で降りてしまえば、手に入るのは最初のひと押しぶんの値幅だけです。手法ではなく、指が損益比を決めている。
- 破産確率の表は、破産の定義と「何回打った場合か」が書いていなければ読めない
- 条件を決めて計算し直すと、生き残れる勝率は損益比で動く(1.0倍→55%/1.5倍→45%/2.0倍→40%/3.0倍→30%)
- 怖いのは低い勝率ではなく、低い損益比。0.5倍は勝率6割でも12.7%が資金を半分にする
- 表に入れていいのは設計値ではなく、決済まで終わったあとの実現損益比
- 覚えるのは数字そのものではなく、境界線が損益比で動くという形のほう
だから私は、入る前ではなく出るときを守っています
私が損益比を追いかけている理由は、これで全部です。
高い勝率を目指すと、利を早く確定させたくなります。当てた回数を増やそうとするからです。そして利を早く確定させるほど、地図の上の行へ登っていく。勝率を追う行為そのものが、必要な勝率を引き上げてしまう。この自己矛盾から抜けるには、勝率を成績表から外すしかありませんでした。
外した結果、私が毎回見ている数字は二つだけになりました。1回の負けで失う額を、資金の2%に固定すること。そして、狙った波が終わるまで降りないこと。
勝率は、あとから勝手に決まります。3割でも4割でも、私の口座には同じことです。
私の計算した表も、条件を変えれば数字は動きます。独立した試行として計算していますし、手数料もスプレッドも入れていない。だから、この表の数字そのものを覚える必要はありません。覚えていただきたいのは、境界線が損益比で動くという形のほうです。
最後に、電卓でできる作業を一つ置きます。
ご自身の直近20トレードの履歴を開いて、勝ちトレードの平均利益を負けトレードの平均損失で割ってください。出てきた数字が、あなたの実現損益比です。設計値ではなく、指が出した数字です。
その数字を上の地図に当てて、横を見てください。あなたの勝率が、その線の右側にあるかどうか。それだけで、次に直すべきものが入口なのか出口なのか決まります。
割り算の結果は、記事末のご案内から無料の一冊を受け取ると届くメルマガに返信で教えてください。「1.4でした」の一行で構いません。
——勝率は、あなたが上げるものではありません。出口が、勝手に決めています。
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損益比が下がる現場を、私は自分の口座で見ています。その顛末から読んでいただくのが早いはずです。



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本記事は私の経験と考え方の共有であり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。
投資には元本を割り込む損失のリスクがあり、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。

