値動きの燃料は、誰かの損切りだった

先に、答えを置いておきます。

「なぜそのラインを抜けると伸びるのか」。この問いの前で、私は口ごもるだけでした。ダブルボトムのネックライン(2つの谷の間にできた戻り高値のこと)、前回の高値、意識される節目。抜けたら買い。教科書の通りに、形は覚えていました。でも「なぜ抜けると走るのか」と聞かれたら、「みんなが見ているから」。それ以上の言葉を私は持っていませんでした。

形だけ覚えた売買は脆いです。根拠が「形」しかないので、形が崩れて見えた瞬間に自信ごと崩れる。含み益が少し削られただけで、降りたくなる。昔の私がまさにそれでした。

いま同じ質問をされたら、一言で答えます。そこに、注文が束で溜まっているから。その注文の束こそが、値動きの燃料です。どこに積まれてどの瞬間に発火するのか、これから追います。これを知ってから、チャートの見え方が変わりました。

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ラインの向こう側には、困っている人がいる

想像してほしい場面があります(買いの例で話します。売りは全部逆です)。

上昇の途中で、価格が一度押し戻される。その下げを取ろうと、売った人たちがいる。ところが価格は下げ止まり、反発してさっきの戻り高値——ネックラインに近づいていく。

このとき、ラインの向こう側には「困っている人」がいます。下で売った人たちです。彼らにとってそのラインは、「ここを越えられたら、損失が膨らみ続ける」一線。だから多くの人が、その少し上に損切りの注文を置いている——注文そのものは見えませんが、私はそう捉えています。売りの損切りは、買い戻し。つまり、買い注文です。

さらにもう一種類。「ここを抜けたら本物だから、買おう」と待ち構えている新規の買い手がいます。

損切りの買いと、新規の買い。動機は正反対なのに、注文としてはどちらもただの「買い」です。ラインの少し上に、火薬が二重に積んである。だから抜けた瞬間に、連鎖して走る。

ラインそのものに、力はありません。力があるのは、そこに溜まった注文のほうです。

燃料は3種類ある。効く場所が違う

もう少しだけ解像度を上げます。動きを作るお金は、大きく3種類です。

  • 利益確定:先に乗った人の決済です。これが押し目(下げ)を作ります。その下げを取った短期の売り手が底で買い戻すと、それが反発の最初の火——点火——の燃料になります。点火とは、価格がその足のいちばん短い平均線を抜け返す最初のサインのことです。
  • 損切り:逃げ遅れた逆方向勢の反対売買。ネックラインの少し上で束になって発火し、ブレイクを加速させます。
  • 新規参加:抜けを待っていた順張り勢。損切りと同じ場所で、加速に加勢します。

つまり点火は底で起き、加速はネックラインで起きる。押し目からの再上昇——エリオット波動でいう第3波だけがあんなに気持ちよく伸びるのは、偶然ではありません。すべての種類の燃料が同じ方向に、順番に着火する。そういう局面は、波の一生の中でここしかないからです。

押しの「ある」波は、燃料を積んでいる

この見方には、おまけが付いてきます。

一度きちんと押し戻した波には、その下げを取ろうとした売り手が溜まる時間がありました。売り手が溜まっているということは、将来の買い戻し——燃料が積まれているということ。だから「押しを経てから抜けた波」は、そのあとの伸びが違います。深く押したかどうかは関係ありません。押しという時間が、あったかどうかです。

逆に押しを作らずに一気に走ってしまった波には、売り手が溜まる時間がありません。燃料も少なく、乗り場もない。追いかけたくなる派手さとは裏腹に、構造としては痩せています。私がそういう波を見送るのは我慢しているのではなく、タンクが空だと踏んでいるからです。

だから私は、そこに罠を置く

ここまで理解が深くなっても、やることは増えません。むしろ、減ります。

押し戻しが耐えたのを——下げが前の安値を割らずに止まったのを——確かめる。そしてネックラインの少し外に、抜けたら自動で入る注文(逆指値——私はこれを罠と呼んでいます)を置いて立ち去る。燃料にいちばん近い一点に先回りして、着火したら乗せてもらう。着火しなければ、何も起きない。罠の置き方そのものは、別の記事に全部書きました。
『相場を追うのをやめて、罠を仕掛けて立ち去る』

この理解が変えてくれるのは、手数ではなく握りです。乗ったあとに価格が多少揺れても「注文の構造はまだ壊れていない」と分かっていれば、降りる理由がない。根拠が形から構造に変わると、自信の出どころが変わります。

そして、この燃料の仕組みは廃れません。特定のインジケーターの優位性は時代とともに消えていきますが、「損をしたら逃げたくなる」「乗り遅れたら追いたくなる」という人間のほうは100年前からほとんど変わっていないからです。

燃料の在りかを、地図として読む
  • ラインそのものに力はない。力があるのは、そこに溜まった注文のほう
  • ラインの少し上には、売り手の損切り(買い戻し)と新規の買いが二重に積まれている
  • 燃料は3種類。点火は底で起き、加速はネックラインで起きる
  • 押しという時間があった波ほど、燃料を積んでいる。一気に走った波はタンクが空
  • 変わるのは手数ではなく握り。根拠が形から構造に変わる

チャートは、絵ではありませんでした。
注文の、地図でした。


次に読む

——注文が溜まる「場所」の話。この記事の姉妹編です。

——燃料の一点に先回りする、罠の置き方の実務です。

——損切りが「燃料」なら、トレンドの本体は何か。注文の残り方の話です。

燃料が溜まる一点に、先回りして罠を置くまでの道筋。押しの見方から画面の設定まで、無料の一冊に全部置いています。

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本記事は私の経験と考え方の共有であり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。
投資には元本を割り込む損失のリスクがあり、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。


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この記事を書いた人

トレードの本質を語ります。聖杯も未来を言い当てる方法もありません。あるのは相場の流れを見極め、優位性が生まれるまで待ち、間違えたら撤退するという地味な積み重ねだけです。私を信じる必要はありません。すべてご自身のチャートで確かめてください。

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