私は、入り方を一つしか持っていません。それを長く、人には言えませんでした。
勝てるトレーダーとは「どんな相場でも取れる人」のことだと、私は信じ込んでいました。
上昇でも下降でも、横ばいでも転換でも。どんな形が来ても、そこから利益を抜き出せる人。SNSで発信されている方々の中には、そういう取り方を十通り近く持っている方がいます。あれを見るたび、本当にすごいと思っていました。
エントリーするたびに、ちゃんと思った方向へ動く。ほぼ100%の確率で勝っているように見える。今考えればそんなわけがないのですが、当時は本気で、そういうことができる人がいると信じていました。
そして同時に、こうも思っていました。
あそこまで行かないと、勝てないのだろう。
その思い込みに払った代償を、並べていきます。
結論から置きます。あの十通りは、一握りの天才の競技でした。私のような凡人が同じ土俵に上がると、むしろ自分に唯一勝ち目のある入り方まで手放すことになります。
私が持っているパターンは、今も一つだけです。

「どんな相場でも取れる人」が、プロだと思っていました
なぜ私がそう信じていたのか。理由ははっきりしています。
そう見えるからです。
上手い方の解説を聞くと、レンジでも取れる。トレンドでも取れる。天井や底の転換でも取れる。場面ごとに違う道具を、迷わず出し分けている。
対して自分は、決めた一つの形が来るまで何日も何もできない。この差を見せられれば、答えは一つしか浮かびませんでした。
道具が足りない、と。
だから足しました。手法を足し、線を足し、本を足す。
そうやって数を増やしていったとき、私の成績がどうなったか。良くなりませんでした。
長いあいだ、私はその理由を「まだ数が足りないから」だと解釈していました。
違いました。順番が、そもそも逆だったんです。
数が多いから勝っているのではなく、多くても崩れないから勝っている
ここが、私がいちばん長く取り違えていた場所です。
十個のパターンを使い分けるには、十個ぶんの判断が要ります。
「今はどの場面か」「どのパターンを当てるか」「この形は本当にそれか」。この判断を、迷わず一瞬で通せる人がいます。だから十個を持っていても崩れない。
つまり十個持っているから強いのではなく、十個持っても崩れない精度が先にあるということです。強さが先で、数は後からついてきた結果でした。
私はその順番を逆に読んで、結果のほうだけを真似しようとしていました。
十個ぶんの判断を、私の速度で回すとどうなるか。迷います。迷えば遅れます。遅れた分だけ、入り場を過ぎたところで飛び乗ることになる。
才能の差はパターンの数ではなく、判断を通す速度に出ていました。

器用さを目指した瞬間、自分の手法が物足りなく見える
数を増やして成績が上がらなかったこと自体は、まだ授業料で済みます。
本当に高くついたのは、別のところでした。
「プロとは器用な人のことだ」と信じている限り、自分が持っているたった一つの形がいつまでも物足りなく見え続けるということです。
同じ一つの形で淡々と取れているときですら、心のどこかでこう思っていました。
これしかできないのは、まだ半人前だからだ。
だから、うまくいっている型をわざわざ触ります。条件を足してみる。似た別の形にも手を出してみる。
私が壊していたのは、いつも調子の悪い手法ではありませんでした。うまくいっている手法のほうでした。
器用さを目標に置くと、自分の武器が欠点に見えます。これがいちばん高い代償でした。
一つに絞ると、来ない日はただ来ない
では一つに絞ると何が起きるか。
一つに絞ったあとの毎日は、書くほどのことが起きません。
その形が来ない日は、ただ来ない。だから何もしません。
十個持っていた頃、私に「何もしない日」はありませんでした。どの相場にも当てはまる何かが手元にあるので、いつでも入る理由が作れてしまう。
一つしか持っていないと、それができません。
来なければ、画面を閉じて終わりです。これが凡人にとっての最大の武器でした。
負けない日を、道具の少なさが強制的に作ってくれる。器用さを捨てた見返りに、私はこれを手に入れました。

難しいところで勝つのを、競っているわけではありません
最後に、いま私が置いている一行を書いておきます。
トレードは、難しいところで勝つのを競う競技ではありません。
いかに難しいところを避けて、簡単なところだけで勝負するか。凡人が勝ち続ける道は、たぶんそこにしかありません。
裏を返せば、十個のパターンを持つことは難しい場面にも入れる道具を持つということです。天才はそこで勝てます。私は勝てません。
それなら私は、入り口の数を絞ったままでいい。
十個を覚えるより、一つを千回見るほうを選びました。
これは謙遜ではなく、勝つための選択です。

「一つでいい」を、勘違いしないでください
ここで一つだけ、はっきりさせておきます。
「一つでいい」は、「楽でいい」という意味ではありません。それが、いちばん危ない読み方です。
一つに絞るということは、その一つを逃げ場なしで使い込むということです。他に持っていく先が無いので、下手であることを道具のせいにできません。
数が多いほうが、実はごまかしが効きます。負けても「この場面は別のパターンだった」と言えるからです。
一つしか持たないと、その言い訳が消えます。だから私は、絞ってから初めて自分の下手さを正面から見ることになりました。
楽になったというより、逃げられなくなりました。
——それでも、こちらのほうが早かった。
「一つでいい」と私が言った時点で、それはもう他人の道具です。私の一つは、あなたの一つではありません。
確かめるのは、この記事の中でなくあなたの取引履歴です。
直近の負けたトレードを、十件だけ並べてみてください。そして、その十件が何種類の入り方で構成されているか数えてみてください。一種類なら、あなたはもう絞れています。三種類、四種類と出てきたなら、負けの原因は腕ではないかもしれません。
数えてみて、何種類あったか。「思っていたより多かった」の一言でも構いません。記事末で無料の一冊を受け取ると、私のメルマガが届きます。その返信に、種類の数だけ書いて送ってください。個別のお返事はしていません。でも、全部読んでいます。
答え合わせの相手は、私の意見ではありません。あなたが数えた種類の数です。
次に読む

——数を増やしていた頃、私が実際に何を失っていたかの記録です。

——一つに絞ったあと、その一つをどう体に入れるかの話です。

——来ない日に、何もしないでいられるようになるまでの話です。
絞ったあとに残る「たった一つの形」が、具体的にどういう形なのか。画面の設定ごと、一冊にまとめて渡しています。

【ご確認ください】
本記事は私の経験と考え方の共有であり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。
投資には元本を割り込む損失のリスクがあり、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。

