「ここで入るのは無理だ」と、何百回つぶやいたか

先に、お願いがあります。これから書くことも、信じないでください。

私がこれから話すのは、教科書のどこにも載っていないただの「私の取り違え」の話です。だからそのまま受け取らず、あなた自身のチャートで本当にそうなっているかを確かめながら読んでください。

——理論は誰よりも分かっているつもりでした。

なのに実際のチャートの前に座ると、毎回同じ言葉を口の中でつぶやいていました。「ここで入るのは……無理だ」。

流れが変わりそうな最初の合図が出る。「来た」と思う。でも、乗る場所がない。損切りをどこに置けばいいのか分からない。指がマウスの上で固まる。冷たい汗が背中を伝う。そうしているうちに、価格は私を置いて走り去る。「あぁ、また」。誰もいない部屋で声に漏れる。これを本当に何百回繰り返したか分かりません。

長いあいだ、自分の腕が足りないのだと信じていました。

違いました。私はただ、入る場所を一段だけ早く置いていただけでした。合図の意味を根本から取り違えていたんです。今日はその話を書きます。

目次

最初の合図は「入れ」ではなく「構えろ」だった

日足で、価格がいちばん短い3日線を抜ける。これは確かに、流れが動き出す合図です。

私はこれをずっと「ここで入れ」の号砲だと思っていました。だから固まったんです。当然でした。そこにはまだ乗る場所(押し目)がない。損切りを置く構造もない。本物か騙しかも、まだ誰にも分からない。入れない場所で無理やり入ろうとしていただけでした。

そこで私はこの合図を「入れ」から「構えろ」へ一段格下げしました。

合図が出たら、入るのではなくただ画面を一つ下の4時間足に切り替えて準備する。それだけ。すると、長年こびりついていた焦りがすっと消えました。間に合わなくても、次の合図がまた来る。そう腹をくくれたからです。

逃したと思っていたチャンスの多くは、そもそも入れない場所だった。チャンスですらなかったんです。

入るのは、合図ではなく「構えた後」だけ

「構えろ」に格下げした合図のあと、価格は一度押してひと息つきます。

押しが前の安値を割らずに止まると、その押しの中に底が二つできます。二つの底の間にできた小さな山(ネックライン)を価格が抜けた時、そこで初めて入ります。合図の瞬間ではなく、一拍おいた後です。

大事なのは、ここで三つの「入れない理由」が面白いほど同時に消えるという事実のほうです。

押しが入れば、乗る場所(押し目)が生まれる。押しの底ができれば、損切りを置く壁ができる。一度押してから動き出せば、騙しがふるい落とされ本物の確度が上がる。合図で飛びついていた頃に無かったものが、一拍待つだけで全部そろう。

入れなかったのは腕のせいではなく、まだ何もそろっていない一拍前に手を出していたからでした。

焦りに、毎回負けていた

なぜ私は一拍待てなかったのか。

合図が出た瞬間、価格はたいてい勢いよく動き出します。目の前で価格がぐんと伸びていくのを見ながら「まだ入るな、一拍待て」と自分に言い聞かせるのは想像以上に苦しい。「今乗らなければ、置いていかれる」。その焦りに、私は毎回負けていました。

けれど置いていかれて困るような波の多くは、そのあと一度は息をつきます。

一度も息をつかずに突き抜けていく波は、そもそも乗る場所が無い波。つまり合図で焦って飛びつくのは、「乗れる波」を待ちきれずに「乗れない波」へ手を出している行為でもあったんです。

一拍待つというのは、我慢ではなく乗れる波だけを選り分けるふるいでした。

※ この「一度も息をつかずに走る波」を追わない理由は『強そうに見える相場ほど、乗れない』に書きました。

合図の読み替え、要点
  • 最初の合図は「入れ」ではなく「構えろ」。画面を一つ下の足に切り替えて準備するだけ
  • 入るのは、押しが前の安値を割らずに止まってから二つの底の間の小さな山(ネックライン)を抜けた時
  • 一拍待つと、乗る場所・損切りを置く壁・騙しの選別が同時にそろう
  • 一度も息をつかずに走る波は、そもそも乗る場所が無い波

今日からできる一手

正直に言えば、この「一拍後の具体的にどこへどう待ち伏せの注文を置くか」にははっきりした手順があります。押しの作り方の見方、注文を置く一点、損切りの壁の取り方——けれどそれを書き始めると一記事まるごと必要になる。だから、具体的にどこで入るかは別記事『相場を追うのをやめて、罠を仕掛けて立ち去る』に譲ります。

ここで線を引いて止めるのは、この記事の主役が「入り方」ではなく「合図の読み替え」だからです。

この記事で持ち帰ってほしいのは、たったひとつ。最初の合図は「入れ」ではなく「構えろ」。

次にチャートで合図を見つけたら、すぐ入らず心の中で「構える」とだけ言ってみてください。入るのは、さきほどの小さな山(ネックライン)を抜けた時。同じ場所です。

それだけで、固まったまま走り去られる回数が静かに減っていきます。

「ここで入るのは……無理だ」。

あの言葉を私は何百回も、誰もいない部屋でつぶやきました。

今になって分かります。あの言葉は、腕が足りない人間のうめきではありませんでした。入れない場所に立っていた人間の、悲鳴でした。


次に読む

——「構えた」あとに確かめる、押し戻しの2条件です。

——構えても来なかったとき、平気で見送れるようになる話です。

——「構えろ」の合図のあと、実際にいつ注文を置くのか。私は形の完成を待たずに置いています。

「構えろ」の合図から、実際に注文を置くまで。私が踏んでいる手順の全体を、使っているチャート設定ごと通しで読める無料の一冊『たった一つの形』にしてあります。

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本記事は私の経験と考え方の共有であり、特定の金融商品の売買を推奨・勧誘するものではありません。
投資には元本を割り込む損失のリスクがあり、最終的な判断はご自身の責任で行ってください。


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この記事を書いた人

トレードの本質を語ります。聖杯も未来を言い当てる方法もありません。あるのは相場の流れを見極め、優位性が生まれるまで待ち、間違えたら撤退するという地味な積み重ねだけです。私を信じる必要はありません。すべてご自身のチャートで確かめてください。

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